Fenderというブランド名から、多くの方が思い浮かべるのはボルトオンネックのストラトキャスターやテレキャスターではないでしょうか。
しかし1980年代後半から1990年代初頭にかけて、Fender Japanでは従来のイメージを大きく覆すモデルが製作されていました。
今回は、その中でも非常に珍しい Fender Japan Esprit Standard。
製造を担当したのは、日本の高い木工技術で知られるフジゲンです。
Fenderらしさを残しながらも、セットネックや角度付きヘッドなど、当時としては非常に挑戦的な設計が盛り込まれた一本です。
Fenderらしくないからこそ面白い「Esprit」
Espritシリーズは、「もしFenderがアーチトップのセットネック系ギターを本気で作ったら」という発想を感じさせるモデルです。
一般的なFenderのスタイルと異なり、
- セットネック構造
- 角度付きヘッド
- 2ハムバッカー仕様
- アーチトップ
など、Gibson系の要素を取り入れながらも、Fenderらしい扱いやすさを残しています。
当時のFender Japanだからこそ実現できた、非常に個性的なモデルと言えるでしょう。
フジゲンならではの丁寧な作り
このEsprit Standardを触ると、まず感じるのが木工精度の高さです。
ネックとボディの接合部は非常に美しく、セットネックならではの滑らかな弾き心地を実現しています。
また、この個体に採用されているネックは、やや三角形を思わせるソフトVシェイプ。
手に吸い付くような握り心地で、長時間演奏していても疲れにくい印象があります。
現在のFenderでもあまり見られないネックシェイプで、このモデルの大きな魅力の一つです。
Schaller製ハムバッカーが生み出すサウンド
ピックアップにはSchaller製ハムバッカーを搭載。
クリアさを保ちながらも厚みのあるサウンドが特徴で、クリーントーンではコードの分離感が良く、歪ませても輪郭を失いません。
ハイパワー過ぎず、ヴィンテージテイストも感じられるため、ロックはもちろん、ブルースやフュージョンなど幅広いジャンルで活躍できるサウンドです。
派手さはありませんが、弾き込むほど良さが伝わってくるピックアップだと感じました。
後のロベン・フォード・モデルへと繋がる一本
Espritシリーズは、後に誕生するRobben Ford Signatureのベースになったモデルとしても知られています。
上位モデルであるEsprit Ultraはブルース/フュージョンギタリスト、ロベン・フォードに高く評価され、実際にライブやレコーディングでも使用されるようになります。
その後、この設計思想を受け継いで誕生したのが、ES-RF(Robben Ford Signature)です。
つまり今回のEsprit Standardも、その系譜に連なる非常に重要なモデルと言えます。
現在では生産期間が短かったこともあり、市場で見かける機会は少なく、Fender Japanを代表する隠れた名機の一つとして評価されています。
音が出たり出なかったりする原因を調査
今回のご依頼は、
「音が出たり出なかったりする」
という症状でした。
内部を点検したところ、配線の断線に加え、ボリュームポットの接点も劣化しており、信号が安定していない状態でした。
長年使用されてきたギターでは、こうした電子パーツの経年劣化は珍しくありません。
配線修理とボリュームポット交換
断線箇所を修復し、劣化していたボリュームポットは新品へ交換しました。
交換後は配線全体を見直し、各ポジションで正常に動作することを確認。
ガリや接触不良も解消され、本来のサウンドを安心して楽しめる状態へ仕上げています。
Fender Japanの隠れた名機
Esprit Standardは、現在のFenderラインナップにはない個性を持ったモデルです。
セットネックによる豊かな鳴り、角度付きヘッドによる適度なテンション感、そしてSchaller製ハムバッカーのバランスの良いサウンド。
さらに、フジゲン製ならではの丁寧な作り込みも相まって、非常に完成度の高いギターに仕上がっています。
流通量は決して多くありませんが、「人とは少し違うFender」を探している方には、ぜひ一度手に取っていただきたい一本です。
LuthiLab Memo
- ブランド:Fender Japan
- モデル / 年代:Esprit Standard / 1980年代後半〜1990年代初頭
- 修理依頼内容:音が出たり出なかったりする症状の修理
- 主な作業内容:断線修理、ボリュームポット交換、配線点検、動作確認
- 今回のポイント:フジゲン製の希少なセットネック仕様Fender。電装系をリフレッシュして本来の性能を取り戻しました。


