見た瞬間に、ものすごいインパクトに目を奪われました。
指板いっぱいに広がる、本物の貝を使った豪華なフラワーインレイ。
さらにボディにも同じように貝細工が施され、まるで工芸品のような存在感があります。
今回お預かりしたのは、ベトナムの工房で製作されたとされるインレイLPタイプ。
一般的なGibsonのレスポールとはまったく違う、貝細工による美しさを追求した一本でした。
しかし、その美しい見た目とは裏腹に、大きな問題を抱えていました。
まるで工芸品のような装飾
近年、ベトナムには高い木工技術を持つ工房が数多く存在します。
特に貝細工の技術は世界的にも高く、ギターへ応用したモデルも数多く製作されています。
この個体も、本物のシェルを贅沢に使用したインレイが特徴でした。
指板だけではありません。
ボディにまで繊細な花柄のインレイが施されており、その高級感は写真では伝えきれないほどです。
演奏する楽器というより、一つの工芸作品を見ているような印象を受けました。

問題はフレットではなく指板だった
今回の修理は、リフレット。
しかし、本当の目的はフレットを交換することではありませんでした。
原因は、
ネックの波うち。
ハイフレット側で酷い音詰まりが発生しており、通常のセッティングでは改善できない状態でした。
ローフレットにはまだ高さが残っています。
それでもリフレットを選択した理由は、
指板修正が必要だったからです。
指板を正しい状態へ修正するには、一度フレットをすべて抜く必要があります。
つまり今回は、
「フレットを新しくしたかった」
のではなく、
「指板を正常な状態へ戻すために、リフレットが必要だった」
という修理でした。
貝細工との戦い
今回、一番苦労したのはインレイです。
本物の貝は非常に硬く、木材とはまったく削れ方が違います。
指板修正では木材と貝を同時に削ることになりますが、その硬さの違いによって均一に仕上げるのが非常に難しくなります。
さらに、新しいフレットを打ち込む工程も簡単ではありません。
通常の指板であればある程度力をかけられますが、広範囲に貝細工が入っているため、打ち込み方を誤るとインレイへダメージを与えてしまう可能性があります。
実際の作業時間や神経の使い方は、体感で通常のリフレットの二倍以上。
下準備を徹底し、ひと工程ずつ慎重に進めていきました。

フレットも演奏性重視へ
今回はミディアムジャンボフレットを採用しました。
十分な高さを確保しながら、コードもリードプレイも演奏しやすいサイズです。
指板修正によって波打ちも改善され、ハイフレットまで自然に音が伸びる状態になりました。
見た目だけではなく、ようやく楽器として本来の性能を発揮できる一本へ生まれ変わりました。
電装もリフレッシュ
作業中に電装も確認したところ、使用されていたパーツは比較的安価な品でした。
オーナー様へご相談し、了承をいただいた上で国産の新品パーツへ交換しました。音の曇りが取れた印象です。
せっかく木材や作りが良いギターでも、電装がボトルネックになってしまうことがあります。
今回は演奏性だけでなく、サウンド面でも気持ちよく弾ける状態へ仕上げることができました。
見た目も演奏性も両立した一本へ
豪華なインレイは、このギター最大の魅力です。
しかし、どれだけ美しくても弾きづらければ、楽器としての魅力は半減してしまいます。
今回は指板修正を伴うリフレットによって演奏性を根本から改善し、さらに電装もリフレッシュ。
工芸品のような美しさと、楽器としての実用性。
その両方を兼ね備えた一本へと蘇りました。
オーナー様にも大変喜んでいただき、私自身も印象に残る修理となりました。
LuthiLab Memo
- ブランド:ベトナム工房製
- モデル / 年代:インレイレスポール
- 修理依頼内容:ハイフレットでの音詰まり改善
- 主な作業内容:指板修正を伴うリフレット、電装パーツ交換、全体調整
- 今回のポイント:フレット交換が目的ではなく、ネックの波うちを改善するために指板修正が必要となったリフレット。本物の貝インレイが全面に施されており、通常のリフレット以上に繊細な作業となりました。電装もリフレッシュし、演奏性・サウンドともに大きく改善しました。

